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症例報告

●症例報告 Vol.2


シャックリが5日間止まらない… 仕上げの‘大転子周囲の鍼’がよく効いた症例
酒井 香織

ホームページでもご報告しましたように、今回の『第11回 松本岐子先生セミナー in Japan』のメインテーマは、『鍼灸臨床わが三十年の軌跡』からの「(1)腰仙関節部、椎間関節部、仙腸関越部、及び、股関節部の痛み、緊張、強張り、引攣に対する処置」(P127〜P129)でした。
 少々長い処置法名ですので、講座などでは、簡単に‘大転子周囲の処置’ と名付けてお話ししています。
 早速、この‘大転子周囲の処置’ を使用した症例報告が届きましたので、ご披露したいと思います。
 酒井さんは、‘ミニ症例報告’としてお送り下さいましたが、中味は、堂々たる‘症例報告’です。
 臨床の一助となりますので、是非、お読みください。

79歳、男性。
もともとの主訴は腰痛。当院には1年半ほど前から2週に1回ペース で来院。
シャックリが5日前から止まらない。

【現病歴】

この時点で腰痛はほぼ(−)。健康管理のために来院している。
シャックリは以前から出やすい傾向だが、今回のように5日間続いているのは初めて。原因不明。

【既往歴】

右ソケイヘルニア

【所見】

脉状:「細・数」、「胃の気」なし。
腹診:オ血反応(+)、膵炎様の腹、「肝実」、下垂‥右ソケイ部(+)。
背候診:「右膈兪」、右側梨状筋(+)。「火穴」反応‥腎・脾(+)

シャックリの治療方針として、以下の3つの柱を考え治療する。

@シャックリ → 横隔膜の痙攣 → 筋肉の膜の痙攣と考え
→ 脾、糖代謝 → 「照海」「兪府」「尺沢」・「右関門」・上太白・背部砂糖穴。
(∵ 膵炎様の腹の改善=横隔膜に近い位置である、「肝実」治療も兼ねる目的)
A横隔膜 → 「膈兪」と関連 → 「右膈兪」(+)を(−)に改善する「左会陽」(屈伸に近い)。
B横隔膜に近い経穴で刺激を与える
→ 「中カン」(「三カン治療」としての腰痛の治療も兼ねる)・ネーブル・「右関門」

まず、本治法(「胃の気」・オ血処置など)を行った後に、上記の3つの治療方針に基づいて治療。
治療中から、胸のつかえが徐々にとれ、シャックリの程度が軽くなってくる。
治療の最後の仕上げの時点で、右側梨状筋に若干(+)が残っていたので、4月19日の『第11回 松本岐子先生セミナー in Japan』で学んだ右大転子の周囲の硬い部位(ターゲットは、右側の梨状筋とソケイ部)に刺針。
ここに刺針した瞬間から、ピタリとしゃっくりが止まる。

治療終了時には、前述の所見(「細・数」、膵炎様の腹、「肝実」、「右膈兪」、下垂の右ソケイ部、右側の梨状筋、オ血反応、「腎」・「脾」の「火穴」反応)が全て改善。
「右関門」に円皮針を保定して治療終了。
その後、シャックリは発症せず。腰痛も(−)が続いている。

【まとめ】

「肝実」は、「照海」「兪府」「尺沢」や「右関門」・「上太白」で改善することが多く、「肝実」処置が不要なことが多いです。
前回の‘松本先生の著書を共に学ぶ講座’で、「肝虚」 → 右C3 → 横隔神経…とあったので、シャックリの治療にも「肝虚」処置(「右太敦」)が有効かもしれないと気付きました。
次回、この患者さんの「肝虚」の所見をよくチェックしてみます。

岐子先生のセミナーで学んだ‘大転子周囲の治療’は、最近の私の臨床では、主訴にかかわらず、仕上げの段階で使用することが多いです。
残っている所見がきれいに(−)になり、症状が速やかに完全に改善することが多いです。
特に、腰、肩に大変効果的と思います。


【村上の補足】
長野潔先生の著書『鍼灸臨床新治療法の探究』P132:「《36》頑固なシャックリを治す」という項目があります。
こちらは、19歳の女性なので、原因は内分泌異常であり、酒井さんの症例は、ベースは糖代謝異常となるかと思います。
このように、同じ愁訴が発症しても、バックグラウンドの違いにより、当然、治療方法が異なっていきます。しかし、シャックリは、横隔膜の痙攣と言われていますので、いずれも、右C3(長野先生は、横隔神経がここから出ているから、肝臓の異常があると反応が現れると言われます)の所見を取っていることは共通しています。
よく「腰痛はどこを治療したらよいですか?…」というような質問を受けますが、バックグラウンドの違いにより、全く治療法が異なることが分かります。
‘実技講座’では、問診をし、それに従って所見を取り、総合的に判断して、治療前に「治療方針」を立てていただきます。
酒井さんのように、まず、基本的な「治療方針」をきちんと立てられていることが、バックグラウンドを把握できているかのポイントになります。
『「肝実」は、「照海」「兪府」「尺沢」や「右関門」・「上太白」で改善することが多く、「肝実」処置が不要なことが多いです』とありますが、松本先生が言われるように、「病は上る」という原則から、まず、下の「右関門」などの所見を改善すると、その上の「肝」の所見も改善していくことが非常に多いです。
所見と処置は、‘1対1’で考えるのではなく、‘1対多’で考えるようにすることが、治療上達の秘訣です。
松本先生のセミナーでは、一つの処置で、何ヶ所もの所見が改善されることがほとんどです。
また、臨床でも度々経験し、‘基礎講座’でも繰り返しお話ししますが、「肝」・「胆」・「脾」(膵臓orオッディ筋)の所見が出ている場合でも、全てを治療する必要はなく、どれか一つ、あるいは、二つの処置で改善することが普通です。
どれか、一番最初にダメージを受けた臓器にアタックすれば(一番のバックグラウンド)、影響を受けた他の臓器は、自然に治っていくのが治癒過程の流れかと思います。

この症例では、村上としては‘ソケイヘルニア’が気になります。
愁訴は、右側に多く現れています。(「肝実」、ソケイ部痛、梨状筋痛、オッディ筋など)
既往歴に、‘右ソケイヘルニア’とだけ書かれていましたが、恐らく、手術をされたのかと思います。所見を取りづらい位置にありますので、手術痕の圧痛を診られたかどうか知りたいところです。
‘ソケイヘルニア’の愁訴改善に、私はよく「人迎」(このために使用する「人迎」は、通常の「人迎」よりやや上方)を使用しますが、ここが、C3のすぐ近くです。
‘右ソケイヘルニア’が、右ソケイ部痛、右梨状筋痛も引き起こした可能性があります。
‘ソケイヘルニア’の手術は、後々、色々な愁訴を引き起こすことが非常に多いです。

ホームページの「症例報告」→「症例報告:Vol.1」の‘谷香織’さんが結婚され、‘酒井香織’さんと名前が変わりました。
結婚されても、変わらずに‘松本先生の著書を共に学ぶ講座’には毎回参加され、私のすぐ前の机に座られて、熱心に勉強されています。
『第11回 松本岐子先生セミナー in Japan』に参加下さり、早速、メインテーマの‘大転子周囲の治療’を臨床に使用され、再び、症例報告を送ってくださいました。
酒井さんのような鍼灸師が増えていくことが、故長野潔先生の夢だった「鍼灸の地位向上」に一歩一歩近づくことになるのではと、強く思います。

皆さんも、是非、興味ある症例がありましたらご報告ください。
お待ちしています。




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